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2005年8月11日 (木)

ウェールズ伝承(3)オウェイン・グリンドゥル

今度は実在の人物オウェイン・グリンドゥルの物語です。シェークスピアの『ヘンリー4世』や『樹上の銀』の318ページあたりにも登場する、ウェールズ独立の象徴的存在の人。

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ウェールズ王家の血を引くオウェイン・グリンドゥルは、ヘンリー4世の宮廷に騎士として仕えていた。宮廷のイングランド人は彼の名前を「オーウェン・グレンダウワー」と発音していた。グレイ卿が自分の領地を侵したことをきっかけに彼はウェールズに戻り、プリンス・オブ・ウェールズの称号を主張してイングランドの支配に反旗を翻した。

反乱ははじめは成功していたが、ヘンリー4世が大規模な軍を送り込むと流れが変わり、ウェールズ軍の敗北となった。オウェインは北ウェールズの山中でイングランド軍に追われる身となった。

オウェインはベズゲラート(Beddgelert)に住む友人赤毛のリースのもとにたどりついた。リースはオウェインを歓待し、身の危険も顧みずにオウェインをかくまった。しばらくは見つからずにいたが、ある日見張りからの知らせで王の軍が向かってきたことを知った。ふたりは同じ服を着て召使に見せかけ、裏口から山中に逃げた。茂みに隠れながら逃げたが、岩だらけの斜面に出た時に遠くから兵士に見られてしまった。

ふたりは丘の斜面を追われながら走った。
「あの岩の陰で道を外れて逃げるんだ。私はまっすぐに走る。」とリースがいい、オウェインはそれに従ったが、リースの帽子が飛んで赤い髪が見えてしまった。
「あれはグレンダウワーではない! 向こうにいるのがそうだ。」

追われたオウェインは行く手をさえぎられ、ベズゲラートの近くにそびえる山モエル・ヘボグ(Moel Hebog)に向かって走ることになってしまった。山の左手にも右手にも、ヘンリー王の兵士たちが迫ってきて、オウェインは逃げ場を失ったと思った。

ベズゲラートからモエル・ヘボグを見上げると、山頂の左下の崖に裂け目があるのが見える。オウェインは万事休すと思った瞬間にその裂け目を見つけて、そこを登り始めた。煙突のように狭くて急な、高さが300フィートもある裂け目だったが、そこしか逃げ場はない。ちょっとでも滑ったら敵につかまるだけでなく首の骨さえ折ってしまうだろう。しかしオウェインは岩登りの名人で、兵士たちが裂け目の下に着いた時には半分以上登っていた。

兵士に追って登るよう命令が出たが、誰も追うものはなかった。ヤギじゃないのだから登れるわけがないと誰もが思ってあきらめたのだった。オウェインは無事に登りきり、山の洞窟に隠れた。ほとぼりが冷めるまでリースはこっそりと食料を運んで援助し、その後オウェインは再び反乱軍を率いてウェールズ独立のために戦った。

500年以上経った現在、ロッククライミングのガイドブックにモエル・ヘボグの登攀ルートが記載されている。その本には各ルートの初登攀記録が記載されているが、ひとつのルートにはこう書かれている。
「グリンドゥル溝。250フィート。初登攀はオウェイン・グリンドゥル、1400年頃。」

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コメント

ウェールズも反乱と鎮圧を繰り返した場所なんですね。このガイドブックのコメントが歴史を感じさせていい味をしてると思います。

投稿: 蓮 | 2005年8月17日 (水) 00時15分

蓮さん、こんにちは。
このガイドブック、ナイスですよね。
別件で『樹上の銀』を見てたら、オウェインは名前だけじゃなくてしっかり登場することに気がついたので、訂正しておきました。だから聞き覚えがあったんだ~。

投稿: Titmouse | 2005年8月20日 (土) 09時28分

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